監督失格

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監督失格
『監督失格』

あらすじ

1996年、映画監督の平野勝之は当時恋愛関係にあったAV女優林由美香と共に、東京から北海道への自転車旅行に挑戦する。最初の1週間は旅のあまりの過酷さに毎日泣き続けていた由美香だったが、ついにひと月以上をかけて礼文島に到着する。その後2人は別れたものの、彼女の死の直前まで友人としての関係は続いており・・・。

監督失格

何かと話題になっている「監督失格」を観ました。2005年、誕生日の前日に急逝した女優、林由美香の遺体発見時の記録を収めた映画。観る側にも相当な覚悟が必要です。

以下、ネタバレあり。

前半は、1997年に公開された平野監督と由美香の自転車北海道旅行の映像をまとめた映画「由美香」がベース。後半は、「由美香」が公開された直後に別れてしまった二人が再び一緒に作品を撮ろうとする話。

わたし、観る前は監督どころか人間失格だって思ってた。だって、監督と由美香は不倫関係だったから。世間的に許されることをしているわけではないのに、二人で行った旅行をまとめて
映画にするなんて、頭おかしい、と。ちなみにこの映画のタイトルは、旅行中はどんな場面でもカメラを回すと言っていた監督に対し、大喧嘩をした時だけは撮影しなかったことを責めて由美香が言った「監督失格だね」という言葉に由来しています。

なぜわたしがこの映画を観ようと思ったのか。以前から林由美香という女優の名前は知っていた。別にAV作品を観たことがあるわけじゃなくて(笑)。2009年に「あんにょん由美香」という映画が公開されていて、なんとなくそれを観たいなと思っていた。だけど結局観られずじまいになっていた。そして公開されたこの映画。観ないわけにはいかない。

北海道までの自転車旅行中、二人はしょっちゅう喧嘩する。たいていは、由美香のワガママ。「疲れた」「もう自転車こぎたくない」「こんなに辛いとは思わなかった」もともと監督一人旅の予定だったのに、それについて行くと言い出したのは由美香のほう。耐え切れなくなった由美香が泣きを入れたのが、東京にいる母親。

監督失格

「父親かと思ったら、ママだった」と監督にいわしめるほど、男前なおっかさん。なんと、あの「野方ホープ」創業者なんです。びつくり。このママの人生もかなり波乱万丈。

なんだかんだで無事目的地まで到着した二人。その途中、いろんな人との出会いや別れがある。東京へ戻る途中でもまた喧嘩して、監督は由美香をひっぱたいたりもするんだけど。

監督失格
そして後半。「由美香」完成後別れてしまった二人が、再び作品を残そうと計画する。由美香は監督の部屋を訪れ、現在付き合っている年下の男性のことなどをうれしそうに話す。その一部始終は監督の回すカメラに収められていた。

次に会う約束をしたのは、由美香の35歳の誕生日当日である2005年6月27日。約束の日に監督はカメラを回しながら由美香の部屋を訪れるが、反応がない。おかしい。今までこんな風に仕事に穴をあけるようなことはなかったのに。

翌日、監督は助手の女の子を連れて再び由美香の部屋を訪ねる。やはり反応はない。ドアに耳を近づけると、由美香が飼っている愛犬の鳴き声だけが響き渡る。そこで由美香ママに電話をし、合鍵を持ってきてもらうことに。やがてママが到着。カメラは助手が回し続けている。

「なんか、変なニオイするね」

部屋のドアを開けた瞬間、ママが言ったセリフ。ここ数日、梅雨のジメッとした空気と温かい気温が続いていた。次の瞬間、ママは何かを悟ったのか、これ以上奥には入れないと言う。そして監督が奥の部屋へ入り、由美香の変わり果てた姿を発見する。

「早く連絡を」
監督にそう言われた助手の子は、カメラを玄関先において部屋を出る。そのカメラが、そこからの一部始終を録画していた。息子に電話をかけ、由美香の異変を知らせるママ。その場に泣き崩れ、悲痛な叫びを上げる姿。冷静に警察に連絡し、現状を伝える監督。

わたしは監督が遺体を確認した直後の顔が忘れられない。人はまるで予期していなかったものに遭遇した時、一瞬にして顔が青ざめるのだと知った。やらせでもなんでもない、監督だってそこに置かれたカメラが回っているとは思っていなかっただろう。人間の「まさかの死」に直面した時、人間が取る行動がそこにまざまざと記録されていた。

これはもう、映画じゃない。ドキュメンタリーとか、そういうくくり方もできない。観てしまった人にしかわからない、「生の性」と「生の死」としか言いようがない。

この映画を観てわたしは、2、3日立ち直れなかった。必死に娘の名前を呼び続けるママの声が耳にこびりついて離れなかった。

由美香は自殺ではない。服用していた薬とアルコールに起因する事故死だ。だけどママは、あとになってカメラが回っていたことを知って、娘の死に監督が関わっていると感じたらしい。弁護士を交え、その時のフィルムは一切公開しないという誓約書を作ったそうだ。

それが今、こうして映画となって公開されている。もちろんママの承諾があってこそ。彼女の死からある程度時間が経って、少しずつだけど心の整理もできたんだと思う。

だけど、監督は違ったんだ。この映画を作ること自体に、あんまり納得がいっていない感じ。それは彼自身も気が付いていないことだった。こうして完結させてしまうことで、由美香を忘れなきゃいけないんじゃないかっていう、恐怖みたいな感情。監督は今までもずっと由美香を愛していたし、忘れたくなかったんだ。

監督失格

それでも映画の最後、ぎっくり腰を押してまで、監督は自転車で出かけていく。痛みをこらえながら自転車をこぎ、監督はこう叫ぶ。

「逝っちまえーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

この映画を作ったことで、監督自身はなにか区切りをつけられたのかな。それとも由美香に対する思いが強くなっちゃったのかな。そんなことを思いながら劇場を後にしロビーに出てみると、なんと監督ご本人が立っていた。なぜ?さっきまでスクリーンに映っていた人が目の前にいると、どうしていいかわかんなくなるね。でも「よかったです!感動しました!握手してください!」っていうのもなんか違う気がして、横目でチラッと見て目の前を素通りしてしまいました・・・。

いやぁ、とにかくすごいもの観ちゃったよ。親しい人をなくしたばかりの人とかは、たぶん観ないほうがいいと思う。

ということで、☆5つ。
人に看取られて死ぬのは、すごく幸せなことだと思います。

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