「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」のジャパンプレミアに行ってきました。アン・リー監督、主人公の声を吹き替えた本木雅弘さんも来ました。
場所は「ユナイテッド・シネマ豊洲」。ららぽーとの中に入っています。ここ、ずっと前から行ってみたかったのです。昔深夜にやっていた「東のエデン」っていうアニメの舞台でもあるし、なによりすごいスクリーンがある。「オーシャンスクリーン」と呼ばれるそのscreen10は、その大きさたるやIMAXに匹敵するほど。スピーカーシステムが違うので、さすがに音の迫力は敵いませんが。そんなところでの試写会だったので、テンション上がりました。
試写の前にイベントがあり、海の上に設けられた浮き橋の上を監督とモッくんが歩いて来る演出。この映画、主人公がほとんど海の上にいるので、それにちなんでいます。
アン・リー監督は『ブロークバック・マウンテン』でアジア人で初めてアカデミー賞を獲った台湾の監督さん。とても流暢な英語を話していました。モッくんは顔が小さくてかっこいい!この方けっこう面白い人なんですよね。
以下、ネタバレまくりです。観る人は読まない方がいいです。観た後読んでね。そして観るなら字幕版がオススメです。
あらすじ
1976年、インドで動物園を経営するパイ(スラージ・シャルマ)の一家はカナダへ移住するため太平洋上を航行中に、嵐に襲われ船が難破してしまう。家族の中で唯一生き残ったパイが命からがら乗り込んだ小さな救命ボートには、シマウマ、ハイエナ、オランウータン、ベンガルトラが乗っていた。ほどなくシマウマたちが死んでいき、ボートにはパイとベンガルトラだけが残る。残り少ない非常食、肉親を失った絶望的な状況に加え、空腹のトラがパイの命を狙っていて・・・。
主人公のパイを演じるのは、オーディションで選ばれた無名の新人です。なんでも弟がこの映画のオーディションを受けに来ていて、「あとでサブウェイおごるから兄ちゃん一緒に来てよ」と言われ、待合室でオーディションが終わるのを待っていたところスカウトされたとかされないとか。とにかくシンデレラボーイであることには間違いありません。
モッくんが吹き替えているのは、大人になったパイの声です。この映画は、大人のパイがインタビュアー(原作を書いた人、という設定)に経験を語る形で進んで行きます。つまり、227日間の漂流の後、パイは生き残ったということは最初っからわかっているのです。だから物語はパイが最後にどうなっちゃうのかではなく、どうやってパイは生き延びることができたのか、というのが主軸になっています。
簡単に言ってしまうと、
「洋上のトラ調教大作戦」
です。
最初にボートに乗っていたのは、シマウマ、ハイエナ、オランウータン、ベンガルトラ、そして人間。それがトラと人間だけになっていることからわかる、弱肉強食の世界。シマウマとオランウータンはハイエナに食われ、そのハイエナはトラに食われてしまう。
じゃあ、”トラ vs 人間”は?
このトラ、実は「リチャード・パーカー」という名前を持っています。先日ぴあからいただいた最新号の特集がこの映画で、そこに興味深い記事が載っていました。
「パイと海を漂流するトラのリチャード・パーカーという名前は、歴史上の奇妙なシンクロニシティ(意味のある偶然の一致)にちなんでいる。エドガー・アラン・ポーの1837年の長編小説は、海を漂流する4人の男の運命を描いたもの。食料が尽き、他の3人に食われた船員の名前がリチャード・パーカーなのだ。この小説の発表から47年後の1884年、実際に”ミニョネット号事件”という不思議な出来事が起こった。海難事故で救命ボートに逃れた4人の乗組員のうち、ひとりが殺害され、やはり食料にされた。その犠牲者の名前もリチャード・パーカーだったのだ!この謎めいた一致を頭に入れ、本作を観ると意外な発見があるかもしれない」
まるでタイタニック号と小説「フューティリティ」に出てくるタイタン号のような偶然の一致。こんなのを読んでいたからですね、わたしはてっきり
パイが最終的にトラを食っちゃう話
だと思っていたわけですよ!んもう!全然違うじゃないの!!!
この映画の原作「パイの物語」は2001年に出ているので、明らかに意識してこの名前を採用しているはず。
最初はオランウータンと仲良くやっていけそうな雰囲気だったパイも、気づいたらトラと二人っきり。食われないためには主従関係をはっきりさせなくちゃいけない。実はパイは子供の頃にこのトラに腕を食われかけていて、危機一髪父親に助けられたという経験がある。その時に見たトラの目になんらかの感情を読み取っていたパイ。よし、こいつ調教したるわ、と一念発起。
そのくせボートはトラに譲って、自分はイカダで過ごすはめに。
そもそもこのトラがボートに乗っちゃったのも、パイ自身のせいだったりするのです。途中いい感じでトラがボートを降りて海に入ってくれて、しかもそのまま上がれなくなっちゃうシーンがある。観客は思います。「そのままトラを海に放り出してしまえ」と。しかしパイはそれをしない。その時点ですでに二人は「同志」だったからです。
きっとトラがいなかったら、パイが一人きりだったら、彼はとっくに命を落としていたはず。トラと対峙するいい緊張感があったからこそ、パイは生き延びることができたんだと思います。
トラはほぼCGで描かれています。毛の一本一本までとてもリアル。その他いろんなところにCGは多用されています。この映画、フィルムじゃ無理。
夜の海で、光るクジラが宙を舞うシーンがあります。
これ、誇張でもなんでもなくて、夜の海でクジラは本当に光るそうです。先ほどのぴあから引用。海洋冒険家の白石康次郎さんの感想です。
「クジラが光っているシーンがありましたけど、実際に夜光虫が多い日の夜は海が光って見えるんです。イルカ自体は見えないんですけど、イルカの形をした光が青い流星のように見えるわけです。だから決して嘘ではない。本物は映画よりももっときれいだったりしますよ。」
へえぇ、そうなんだぁ・・・。見てみたいなぁ。一人ぼっちじゃイヤだけど。
沈没した貨物船は日本船籍で、後に救出されたパイの元に、沈没時の聞き取り調査に日本人が来るんだけど、全然パイの話を信用しない。っていうか、なんで船が沈没したか聞かれてるのに、自分の冒険談語っちゃってる。日本人は「おまえの武勇伝聞きに来たんじゃないんだよ・・・」って顔してる。確かに。
「じゃあ本当のことを話すよ」と言って、パイはボートにいた動物たちを擬人化した話を始める。しかもいきいきと。だから、聞きたいのはそれじゃなくて、どういう状況で船が転覆していったかってことなのに!!!それだけの体験をしたら、誰かに話したくなる気持ちもわかりますけど。で、結局転覆原因はわからず。確かに大嵐だったけどあの程度の時化で沈む船じゃないはずだし、『タイタニック』みたいに氷山にぶつかったわけでも、『ポセイドン』みたいにありえない大波にあったわけでもない。あと、船員の避難誘導が適当すぎ(笑)。でも映像の迫力はものすごいです。
ま、とにかくきれいな映像満載です。3Dと2Dどっちがいいかって聞かれると・・・・。んー、別に2Dでもよかったかな。映像のきれいさを楽しむならむしろ2Dかも。3Dはどうしても暗くなるし。
ただねぇ・・・。ものすごく感動したかっていうと、そうでもない自分がいたりします。とりあえず3D映画は「ジェームズ・キャメロン絶賛!」っていうのがつかないとダメ、みたいな風潮になっていて、この映画もそうなんだけど、正直「どこが?」って思ってしまう。それをいうならあの「シルク・ドゥ・ソレイユ3D」だってそうだったからね(あれの3Dの必要性がいまだわからない)。
ストーリー自体もなんだかきれいにまとまりすぎっていうか。227日も漂流してるんだから、もっともっと命の危険にさらされていいはずなのにそれがあんまりない。海をサメがウヨウヨ泳いでるのに、ただ泳いでるだけ。ジョーズばりにとは言いませんが、もうちょっとなにかあっても。毎日がサバイバルですから、それを全て描いていたら227のストーリーになってしまうのかもしれませんが。
アカデミー賞にもノミネートされまくっている本作。堅物ばかりの審査員に、こういうの受け入れられるのでしょうか。
ということで、☆3.5。
ヒットはするんだろうな、きっと。