『愛、アムール』
あらすじ
パリ在住の80代の夫婦、ジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)とアンヌ(エマニュエル・リヴァ)。共に音楽教師で、娘はミュージシャンとして活躍と、充実した日々を送っていた。ある日、教え子が開くコンサートに出向いた2人だが、そこでアンヌが病で倒れてしまう。病院に緊急搬送され、かろうじて死だけは免れたものの、半身マヒという重い後遺症が残ってしまう。家に帰りたいというアンヌの強い願いから、自宅で彼女の介護を始めるジョルジュ。しかし、少しずつアンヌの症状は悪化していき・・・。
久々にずどーんと来た映画、「愛、アムール」。銀座テアトルシネマで行われた試写会に行ってきました。今年度アカデミー賞外国語映画賞受賞作品です。
なにも不自由なく暮らしていた老夫婦を、突然の病が襲う。今までと同じようには行かない。けれどもただひたすらに淡々と流れて行く日常。無駄なものは一切排除し、老夫婦の過ぎ行く日々を追っていく。
介護はする方もされる方も、辛いんだ。体が動かないもどかしさ、完璧に介助できないもどかしさが、やがて苛立ちとなっていく。
劇中、ほとんど音がありません。元音楽教師という設定なので、多少ピアノを弾いたりCDを流したりはするけど、それ以外はほぼ無音。そしてフランス映画。ごにょごにょ響くフランス語。わたしが眠たくならないわけがない。
しかし終盤、そんな眠気も何もかも全て吹っ飛ばす光景が目の前に。あぁ、そうなるのか・・・。
途中2回ほど、平和の象徴である「鳩」が出てきます。1度目と2度目、微妙に意味が違う。うまく伝えられないけど。
老々介護はなにも日本に限ったことではなく、世界中至るところで起こっていること。この夫婦だって、高級アパルトマンに住んでいてお金だって持っているだろうに、他人に頼らない。夫婦だからこそ、自分たちの力だけでなんとかしたい。そんな想いが強すぎる。
もっと人に頼ってもいいんじゃないかな。辛いことは「辛い」と、口に出さなければ決して周囲には伝わらない。自分たちだけで頑張ってもいいけど、そこに他人が入り込む余地を少しでも残しておく方が懸命だ。
そして改めて思ったのは、フランス人っていくつになっても「男と女」なんだ。恋はするものではなく落ちるもの、とフランス人はよく言ったものだ。夫婦になって子供ができても、「お父さんとお母さん」ではなく「男と女」でい続ける。そういう関係って、すごく素敵。だって、好きになったのは誰かの親ではなく、目の前のあなたなのだから。フランス人男性なら絶対「うちの愚妻が・・・」とか、言わないんだろうな。日本って、どうして伴侶を見下すような言葉が多いんだろう。悲しいね。
わたしは試写会で観たけど、ものすごく客の年齢層が高かったです。公開後も夫婦で観に行く人が多いとか。観終わった後、どんな話するんだろう。
難しい役どころを見事に演じ切った二人が素晴らしいです。ぜひ、いろんな世代の人に劇場で観てほしい映画でした。
ということで、☆5つ。
ジャン=ルイ・トランティニャンは、「男と女」のジャン・ルイです。