『サラの鍵』

あらすじ

1942年、ナチス占領下のパリ。ユダヤ人一斉検挙によってヴェルディヴに連れてこられた人々の中に、少女サラはいた。それから60年後。パリに暮らすアメリカ人ジャーナリストのジュリア（クリスティン・スコット・トーマス）は、アウシュヴィッツに送られた家族を取材するうちに、かつて自分のアパートで起こった悲劇を知ることとなる。

どうしても観たかった、「サラの鍵」。ナチス占領下のパリで行われたユダヤ人迫害、ヴェル・ディヴ事件を題材に、過去と現代を交錯させながらユダヤ人一家に起こった悲劇を描いた映画です。

以下、ネタバレちょっとあり。

この映画は、「黄色い星の子供たち」という映画を観ておいたほうがたぶんより理解できるのでは、と思います。わたしは見逃してしまったんだけど、名画座でかかったら絶対行こうと思ってる。

「ヴェル・ディヴ事件」とはなにか。
1942年7月16日、夜明け前のパリで始まったユダヤ人一斉検挙。子供も女性も、赤ん坊さえも、1万3,000人ものユダヤ人がヴェル・ディヴ（冬季競技場）に押し込められ、5日間、水、食料もなく放置された。トイレすらない、劣悪な環境。地獄としか言いようがない。

劇中、このヴェル・ディヴの目の前に住む女性にジュリアがインタビューした時に得た証言。

女性「3日くらいすると、とても窓を開けられる状態ではなくなったわ」
ジュリア「それは騒音で？」
女性「いいえ、臭いよ」

どれだけひどかったかがわかる。

ヴェル・ディヴに収容されたユダヤ人たちは、そこからアウシュビッツへと送られたのだ。

ユダヤ人迫害は、ドイツ人しか行っていなかった、というのは違う。フランス人も同じことをやっていた。1995年、シラク大統領の演説で初めて明らかになるまで、フランス人ですらその事実を知らなかったらしい。

この映画の主人公は二人いる、といえる。一人は1942年を生きる少女、サラ。彼女はユダヤ人だった。7月16日、ユダヤ人一斉検挙によってヴェル･ディヴへと連行される。その際、サラは弟をかくまうため、「すぐに戻るからね。絶対に出てきちゃダメだよ」と言って、彼を納戸に閉じ込める。鍵をかけて。すぐ帰れると思っていたサラの行き先は、アウシュビッツ収容所。もう家に戻ることはできない。

「おまえが弟を見殺しにしてきたんだ」とサラを責める両親。あんな極限状態に置かれたのでは、きっと彼らの精神状態も正常ではなかったのだろう。

もう一人の主人公は、現代を生きる女性、ジュリア。彼女は雑誌の取材のためにヴェル・ディヴ事件について調べていくうち、自分のアパートの過去を知る。

違う時代の二つの物語が、一つの場所を通じてつながっていく。とてもとても、やるせないストーリー。

ちなみにジュリアを演じるクリスティン・スコット・トーマスは、「ミッション：インポッシブル」1作目で始めのほうに殺されるスパイ役で出てました。その時の役名が、サラ。気づいてちょっと驚いた。

サラの弟がどうなったのか、だいたい検討はつくと思います。お姉ちゃんの言いつけを守る、いい子だったから。サラは何とかして収容所を抜け出し、弟を助けに行こうとする。そこで出会う人たちがまた、いい人。

ジュリアはジュリアで、どんどん過去を調べていくうちに触れてはならない家族のタブーにたどり着いてしまう。過去と現在、映像は頻繁に入れ替わるものの、観ている側にわかりやすく、切り替えやすいつなぎ方。

なぜ「ユダヤ人」というだけで、こんなことをされないといけないのか。黒人差別とかなんとか、いろいろ言うけど、肌の色で言うんだったらユダヤ人も白人でしょ？どうして人はそんなに優劣をつけたがるのだろう。同じ人間なのに。ホロコーストとか無差別殺戮とか、いったい何の意味があるっていうんだろう。

こうして歴史が語られるのは、そこから生き残った人たちの証言があったからにほかならない。もし本当に全員が死んでしまっていたら、真実は永遠に闇に葬られたままだったんだろう。

「指導者」と呼ばれた人は、それで満足？自分のやった【功績】が、後世に残らなくてもよかったの？誰かが語らなければ歴史は残らない。だけど、生き残った人たちはそんなもの思い出したくもなかっただろう。

誰にでも隠しておきたい過去はある。だけど自分のルーツだけは誰かに伝えておかなきゃいけないと思った。そうじゃなかったら、歴史が途絶えてしまうから。将来自分の子供に名前の由来を聞かれても、答えられなくなってしまうから。

 

ということで、☆4つ。
もし観るのなら、精神状態のよい時をオススメします。弱ってるときは、観ちゃダメ。