この世界の片隅に

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この世界の片隅に

あらすじ

1944年広島。18歳のすず(声:のん)は、顔も見たことのない若者と結婚し、生まれ育った江波から20キロメートル離れた呉へとやって来る。それまで得意な絵を描いてばかりだった彼女は、一転して一家を支える主婦に。創意工夫を凝らしながら食糧難を乗り越え、毎日の食卓を作り出す。やがて戦争は激しくなり、日本海軍の要となっている呉はアメリカ軍によるすさまじい空襲にさらされ、数多くの軍艦が燃え上がり、町並みも破壊されていく。そんな状況でも懸命に生きていくすずだったが、ついに1945年8月を迎える。

この世界の片隅に

異例の大ヒットを遂げたアニメーション映画です。公開時は70館にも満たなかった劇場が、いまや300館。なんなのこれ。

映画の話をする前に、原作者のお話でもしましょうか。

この映画の原作は「この世界の片隅に」という、「漫画アクション」で連載されていた漫画です。作者はこうの史代さん。わたしが最初にこうのさんの作品を知ったのは、同じくこうのさんの漫画が原作の『夕凪の街 桜の国』という映画でした(号泣もの)。といっても映画を観た時点では漫画が原作だったとは知らなくて(観た映画館で原作漫画が売られてたらしいが)、あとから知って本を買って読みました。その流れで「この世界の片隅に」という漫画も買っていて、5年前に北川景子主演でドラマ化された時はいろんな人に「いいから観ろ!」と勧めまくってました。今考えると(その時も思ってはいたけど)、北川景子って主人公のイメージとだいぶかけ離れてるんだわ。でもドラマ自体はよかったし、特にリンさんっていう役を演じていた優香のアンニュイな感じが好きだった。

で、満を持してのアニメ映画化です。こうのさんの漫画を読んだことがある人ならわかると思うけど、絵がキラキラしているわけでもないし、主人公がとびきりかわいいわけでもないし、ほんとにそこら辺にある日常がそのまま絵日記みたいに描かれてるんです。そして文章での説明も極めて少ない。下手したらセリフがまったく出てこない回もあったりする。読み進めていって「あれ、こんな話出てきてたっけ?」と、前のページに戻ったりしないと理解できない部分もしばしば。そんな漫画を、しかも上中下巻もあるような内容を、2時間のドラマや映画に詰め込もうっていう方が難しいわけです。でもね、この映画に関してはほぼ原作に忠実だったと思います(違うところは後述)。

とりあえず言っておきたいのは、わたしはこの【原作】が大好きだってこと。

物語は昭和初期の広島が舞台。主人公は少しボーっとしたところがある浦野すず。すずちゃんが6歳くらいの時から物語は始まります。ある日お遣いで広島市内に海苔を届けに行く途中に人さらいに捕まってしまったすずちゃん。放り込まれた人さらいが背負う大きなかごには、すでに少年の先客が。2人で知恵を絞って人さらいから逃げた十数年後、この少年はすずちゃんを探し出し「嫁にほしい」と言いに来るのです。たった1度、しかもほんの何分か一緒にいただけなのに、もんぺに書かれていた名前だけを頼りに一人の人間を探し出すって、すごくない?ネットもない時代なのに。特徴って言ったらすずちゃんのあごにあるホクロだけですよ。

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そしてめでたくすずちゃんとこの少年、周作さんは夫婦となり、周作さんの実家がある呉市で一緒に暮らし始めます。ものすごく遠くにお嫁に行ったような描かれ方をしてますが、江波と呉って電車で2時間くらいしか離れてないんだよね。東京の人間からすれば同じ広島県内なんだし、たいしたことないじゃんって思うけど、当時としては割と遠距離だったのかもしれない。

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すずちゃんは自分でも自覚している通り少々ボーっとしているところがあって、でもそれが逆に何があっても動じない強さみたいなものになっているんじゃないかとも思うのです。周作さんの姉で子連れで出戻ってきた径子さんにさんざん嫌味を言われても、絵を描いていたところを憲兵さんに見つかって家に怒鳴り込まれても、右から左に受け流すみたいな感じでポヤーっとしてる。本人的には反省しているのかもしれないですけど(笑)。

なかなかのボリュームがある原作を2時間ちょっとにまとめるのはやっぱりさすがに無理があって、端折られてるエピソードもいくつかありました。例えば最初に言ったリンさん。実は周作さんと過去に何やらあったらしいんだけど、そこにはまったく触れられてなかった。すずちゃんがそのことに気が付いてしまう「端の切れたノート」っていう小道具はばっちり映ってたのに。そもそも別にリンさんいらなくない?みたいな出番しかなかったです。

かと思えば、原作にはないセリフやシーンが増えていたりもします。呉の港に戦艦大和が入港して、それを周作さんとすずちゃんが丘の上から眺めているシーン。原作だと周作さんが「すずさん、あれが大和じゃ。お帰りって言ってやってくれ」みたいなセリフしかないんだけど、映画では「あの船には2700人乗っている」っていうセリフがありました。この後の沖縄特攻で大和が沈み、それだけの人の命が失われたんだっていうことを暗に言いたかったのかな。あとは女学生の行進シーンとかも原作にはありません。これは監督が史実を調べていく中で実際に行われていたと知り、追加したとおっしゃってました。

あとね、とにかくセリフでの説明が少ないのです。パッと絵が映って、もう次のシーンになってたりして、ついていきにくい部分もある。ある日突然すずちゃんのお兄ちゃん(あまりにも怖いので「鬼ィチャン」って呼んでる)が骨(という名の石っころ)になって帰ってくるんだけど、え、お兄ちゃんいつの間に出征してたの!?って思った人もいるんじゃないかな。それより前にほんとに短いシーン、しかもすずちゃんの落書きみたいな絵で、お兄ちゃんが出征したことは示されていたんです。あとは突然「楠公飯」を作り出したりとか。これもその前のシーンで近所のおばちゃんに作り方を聞いてメモしているんです(ここ、原作で一切セリフがなかった回のエピソード)。わたしも原作を読んでいなかったらたぶん気が付いていなかったと思う。

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この映画、シーンが変わるごとにその日付が画面上部に表示されます。「昭和18年7月」みたいな感じで。時はすでに太平洋戦争真っただ中。戦争、広島といえば真っ先に思いつくのが「あの日」なわけで、とにかくその日に向かって淡々と突き進んでいく内容です。それなのに、その決定的な日だけは日付が出ません。「その9日後」と表示される。しかも「ピカッ!」って光って終わり。今のなんじゃろねえ、雷でも落ちたんかねえ、みたいなのんきな会話で終わり。同じく子供が主人公で戦中戦後の広島が舞台の「はだしのゲン」という強烈な漫画がありますが(わたしは小学生の時に全巻読んでトラウマです)、ああいうものすごさっていうのは一切ないです。その悲惨さを描く必要がない。なぜならこの映画の最大の悲劇は原爆が落ちたことではなく(呉では原爆そのものによる被害はまったくなかったっぽいし)、すずちゃん自身に起きたことだからです。まだ観ていない人もいると思うのであえて今は書きませんが、それこそ絶望してしまうような出来事。そうなってしまったから余計にすずちゃんは日本が負けて戦争が終わってしまったことが許せない。私の体はまだ残っているのに、全員玉砕する覚悟で戦っていたはずなのに、って。

わたしは今日までにこの映画を3回観ていますが、今回のレビューは一番最初に試写会で観た時のものです。やっぱり試写会の反応が一番よかった。笑うところでは笑うし、泣けるところでは遠慮なく泣く。映画館で観るとどうしても遠慮してしまうっていうのがあるからね。大人の事情ってやつで事前のマスコミによる宣伝もほとんどなかったこの映画、ましてや試写会の時期なんて事前情報もない中で観に来ていた人たちの素直な反応が見られた。わたしも泣く気満々で始まる前からハンドタオルを握りしめていたんだけど、すずちゃんの身に起こる出来事や結末を知っていたからか思っていたより泣けなかった。

そして現在の爆発的ヒットですよ。わたしからしてみたら「なぜ?」なんだけど(笑)。そりゃ原作がいいんだからいい映画になってるに決まってるじゃん。大コケした実写映画じゃないんだし。どれとは言わないけど。公開後だってテレビで取り上げられることもほとんどなく、観た人の口コミで広がっていったとしか考えられない。みんな、何がそんなによかったの?そう思ってしまうのも、自分の好きなものが流行りだすと興味をなくしていくわたしの性格なんですけどね。

ということで、/5
観た人は感想を教えてほしい。

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